幡ヶ谷亭直吉ブログ

娘のここねと格闘するエンジニア。

『BIG THINGS どデカいことを成し遂げたヤツらはなにをしたのか?』を読んで ~ 充分に検討した上で行動に移す

読書メモ。2025年7冊目。
『BIG THINGS どデカいことを成し遂げたヤツらはなにをしたのか?』を読んでの感想となります。(2025/1/27記載)

本の概要

メガプロジェクト驚異的成功の秘密!
予算内、期限内で超益を生む戦略とスキル!

世界を変えるアイデアを、確実に、実現しよう――。

引用:

www.sunmark.co.jp

動機

・タイトルに比べて中身が面白いとよく聞く。
・タイトルの雰囲気そのままだとしてもサクッと読むのに面白そう。
・なるようにならないとしても視線は高く持ちたい。

感想

凄く面白かったです。

やっぱりタイトルはあまり良くないと思っていて、実行よりもその前にフォーカスした本書とは少しずれている気がします(とは言え、実行より前も含めてプロジェクトと本書は捉えているので誤りではないのか)。

ソフトウェア開発をしていて、やっぱり無駄なことはしたくないと思っていて、無駄なことをするとその分の時間がかかるだけでなく、その分のメンテナンスコストもかかります。それに加えて、もっと他にやりたかったことができたはずの時間が無くなります。
本書では、それを実行する期間中にも何がしかの良くないことの発生するリスク(ブラック・スワン)はあって、計画段階にそうしたリスクを可能な限り落とし、リスクが発生しないように大きなプロジェクトはできる限り小さくしようという話がありました。

少し前に私が担当している開発プロジェクトで、開発チームで抱えきれない期限付きの4人月ぐらいの作業があって、それを推進して欲しいと1か月の契約延長を頂きました。
1週間ほど具体的なタスクの推進に着手せず、そのタスクがなぜ必要なのかを整理していたところ、本来の目的を叶えるためには期限は不要で4人月分の作業も不要であることが分かりました。

この本で言われる『ゆっくり考え、すばやく動く』に本気で賛同します。
我々が動くことには常にお金が発生します。一度作った負債は取り除こうとしない限り残り続けます。多くの場合、作業は一人ではなくチームで行います。コストも成果に対するフィードバックも個人ではなくチームが抱えることになります。
我々は、ゆっくりじっくり充分に考えてから、本当にやるべきことをやる必要があると改めて思いました。

忘れたくないメモ

■プロジェクトの共通パターン
誰かがビジョンを描き、それを計画に落とし込み、それを実現しようとするときには、心理と政治の影響が避けられない。人間の思考と判断、決定には、楽観主義などの心理メカニズムが必ず作用する。人や組織が資源を求めて競争し、地位を求めて画策することには、必ず権力が絡む。このような普遍的な要因が作用するからこそ、あらゆるタイプのプロジェクトがたどる共通の「パターン」が存在すると予想できる。
最もよく見られる失敗するプロジェクトに共通する特徴は、「すばやく考え、ゆっくり動く」。成功するプロジェクトは、ビジョンを計画に落とし込み、首尾よく実現させ「ゆっくり考え、すばやく動く」。


■プロジェクトが破滅的に失敗するリスク
ほとんどのプロジェクトタイプがファットテール分布に従う。どれだけの割合のプロジェクトが極端な結果に終わるのか、その発生がどれだけ極端なのかは、タイプによって異なる。リスク自体がファットテールを持つため、ほとんどの大プロジェクトは、破滅的な失敗に終わるリスクがある。

■長期プロジェクトとブラックスワン

失敗するプロジェクトはズルズル長引き、成功するプロジェクトはスイスイ進んで完了する。プロジェクト期間が長くなればなるほど、ブラックスワンが窓から飛び込んできてトラブルを起こすリスクが増大する。ささいなできごとでも、めぐり合わせが悪ければ壊滅的な結果を招くことがある。短く収めることで窓が開いている時間を劇的に短縮し、プロジェクトリスクを下げる。


■プロジェクトでの計画フェーズの重要性
プロジェクトは計画(プランニング)と実行(デリバリー)の2つのフェーズに分かれている。プロジェクトはビジョンから始まり、計画フェーズで徹底的に調査、分析、検証し、信頼性の高い実行のロードマップとする。計画フェーズはそれほどコストがかからず、リスクも少ない。創造的で多面的で注意深い思考は、ゆっくりとしたプロセスなのだ。実行フェーズでは大金が投入されるため、プロジェクトがリスクにさらされやすくなる。


■故障と修理のループ
プロジェクトはうまくいかなくなるのではなく、最初からうまくいっていない。計画フェーズで見過ごされ検討されなかった問題がすぐに露呈し、事態の収拾に奔走する。するとまた別の問題が発生し、さらに奔走する。


■コミットメントの錯誤
時期尚早に1つの選択肢に決め、即座に行動に移れば、その後必ず問題が生じる。ほかに選択肢があるかもしれないのに、それが唯一の選択肢であるかのようにふるまい、結果として予想以上のコストやリスクを負ってしまう。

■戦略的虚偽表明
どんなプロジェクトも、意思決定を下すのが人間だという点で必ず心理と権力の両方が作用する。慎重に考え抜くことは、戦略的虚偽表明と心理メカニズムによって拒まれる。「戦略的虚偽表明」とは、戦略目的のために情報を意図的かつ体系的に歪めたりごまかしたりする傾向。戦略的虚偽表明のねらいは、「後戻りできない地点までプロジェクトを進める」ことにある。これは政治力学であり、そうなれば失敗は避けられない。政治と心理メカニズムを比べて、どちらの影響が大きいか。プロジェクトがどんな種類の政治力学も存在しない状況に近ければ近いほど、心理の影響が大きくなる。プロジェクトの規模が拡大し、意思決定がおよぼす影響が大きくなればなるほど、お金や権力がものをいうようになる。

■瞬間的判断
迅速で直感的な「瞬間的判断」が、人間の意思決定における標準の情報処理システムという考えがある。瞬間的に判断を下すためには、情報をえり好みしていられない。手持ちの情報が、意思決定に必要なすべてだと決めてかかる。私たちはいったん直感的に「こうだ」と思い込むと、その判断をゆっくり慎重に徹底して吟味することはほとんどない。


■結論に飛びつくマシン
直感的判断を「感情」と混同しないことが重要。但し、直感的判断は感情として経験されるのではなく真実のように感じられ、それを元に行動するのは合理的なことのように思えてしまう。

■ベストケース・シナリオ
ベストケース・シナリオが実現することはめったにないし、その可能性すらないこともある。私たちはが予測するときに思い描くのは、仕事をしている「自分の」姿だけであり、フォーカスが狭いせいで邪魔する周りの人やものごとはすべて視界から消える。過去の類似プロジェクトの結果という意味での「経験」は、たいてい無視され、どういう場合に予測が外れるかが注意深く検討されることもほとんどない。

■計画立案によるプロジェクトの前進
計画立案はプロジェクトの一部であり、計画立案の前進は最もコスト効率の高いプロジェクトの前進。計画立案をないがしろにし、まるでプロジェクトに本格的に着手する前に片づけるべき、厄介事のように扱うことは問題がある。実行重視の対象は、やり直すことができる「可逆的」な意思決定に限定される。「不可逆的」な大型プロジェクトの決定の大半には適さない。早く決めてしまいたい衝動を感じたら結論を出す前に、慎重に検討しよう。


■目的に対するプロジェクト(計画と実行)
プロジェクトは目的を達成する手段に過ぎない。最初に「目的」にフォーカスし、次にその目的を実現するための「手段」の議論に移る。よい計画を生み出すのは幅広く深い「問い」と、創造的で厳密な「答え」。よい計画立案は時間がかかる。十分な情報をもとに、「何のために、なぜやるのか」を明確に理解し、そして最初から最後までそれをけっして見失わないことが、成功するプロジェクトの基本。

■実験と経験
人は実験を通して経験を生み出していく。専門用語で言えば「経験的学習」である。人間は工夫を重ねて学ぶことに長けている人間は他人の経験からも学べる。よい計画は、実験または経験を周到に活用する。優れた計画は、実験と経験の両方を徹底的に活用する。

■計画立案における反復的プロセス
計画立案を能動的な試行錯誤のプロセスとみなす。計画はエクスペリリ(実験+経験)をもとに、ゆっくり、徹底的に、反復的に立てる。反復的なプロセスにはそうするだけの価値がある。第一に、自由に実験することができるから。うまくいかなくても別のアイデアを試すことができる。第二に、このプロセスではあらゆる部分が精査、検証される。実行フェーズに入る前に、曖昧な点がすべて解消される。第三に、基本的な認知バイアスを克服するのに役立つ。理解しているつもりのことを説明しようとして、実はわかっていないことを自覚すれば、錯覚が解ける。第四に、コストがそれほどかからない計画を立てる間に、トラブルに対して打てるだけの手を打てる。計画立案は、プロジェクトを本格的に実行する前の試行錯誤と学習であり、この段階の慎重で徹底的で広範な検証が、実行を円滑かつ迅速に進めやすくする。

■プロジェクトにおける経験
経験は判断の質を高め、プロジェクトの計画立案や運営を向上させる。年齢は時間を反映し、時間とともに経験が積み重なる。経験はものにも蓄積される。経験は政治が優先されるとき、あえて軽視されることが多い。政治家はプロジェクトの目的よりも、ほかの利益を優先する。経済的に問題だし、モラルやリスクの問題が生じることもある。プロジェクトの計画者が経験に価値を認めないのは、前例から学ぶことはほとんどないという独自性バイアスに陥るから。先行者は一定の状況下でメリットを得ることもあるが、それと引き換えに、他社の経験から学べないという手痛い代償を払う。「ファスト・フォロワー」となって、先行者から学ぶことが重要。

■実績知による最高の計画
経験は仕事の質を高める。「暗黙知」は「熟練した直感」であり、専門領域で経験を積んだ本物の専門家だけが持てる強力なツールである。全体にとっての善が何であるかを知り、それを実現する能力である「実践知」を得るには、暗黙知が必要。新しいアイデアを試すときは、比較的安全に失敗できるように工夫された方法で検証し、計算されたリスクを取る。有効なものを残し、無効なものは捨てる。試行、学習、反復し、計画を熟成させる。よい計画は経験または実験を最大限に活用し、優れた計画は経験と実験の両方を最大限に活用する。最高の計画とは、経験とフロネシスを持つプロジェクトリーダーとチームによって、実験を最大限に活かして立案され、実行に移される。

ブラックスワンマネジメント
失敗の根本原因は、実行が始まるずっと前の「予測」にあることが多い。単純なプロジェクトでも、起こり得るトラブルはたくさんある。予想外のトラブルを考慮した予測をする。大型プロジェクトのブラックスワン・マネジメントは、複数の手法を組み合わせて行うのが一般的。プロジェクトを早く終わらせることが、究極のブラックスワン防止策になる。プロジェクトが完了すれば、少なくとも実行フェーズが原因でコストが膨張することはなくなる。次の重要な一歩は、固定観念を捨てブラックスワンに対し、研究し、軽減すること。ブラックスワン・マネジメントに関してとくに難しいのが、独自性バイアスを克服すること。「自独自性バイアスは回避できたはずのリスクを見過ごすことになる。

■計画フェーズにこそ創造性は宿る
創造のひらめきを活かすべきときは、実行フェーズではなく、計画フェーズである。計画フェーズにこそ創造性は宿る。典型的なプロジェクトではコストが過小評価され、便益が過大評価される。実際のコストは予想を上回り、便益は予想を下回る。プロジェクトが暴走するとき、機会費用が発生する。ほかの選択肢を選べば得られたはずの利益である。計画を誤ったせいで資金が無駄になり、ほかのプロジェクトに投資していたら得られたはずの利益を逸してしまう。

■チーム
人々が実力を存分に発揮できるのは、連帯意識と主体性を持って、価値ある目的の実現に本気で取り組むとき。所属チームはアイデンティティの一部になる。全員が1つのチームになるには、同じチームの一員であるという意識を共有することが欠かせない。チームビルディングの第一歩は、アイデンティティ。第二歩は、目的意識。

■モジュール性とスケールフリー
大きいものを小さくつくることができる。生存競争に勝つ「適者」は、自己複製に長けたモジュールであることが多い。反復はモジュール性の真髄。反復は実験を可能にする。反復は経験を生み出し、パフォーマンスを改善する。この方式を取れば全体の性質を変えずに、1から無限大まで好きなようにモジュールの数を増減して、スケールアップ/ダウンできる。全体のサイズが変化しても性質は変わらない。スケールフリー性のおかげで、どんなサイズのものをつくるにも、同じ原則に従ってスケールアップ/ダウンするだけでいい。

備考

リスクについてはSREKaigiのこのセッションのMTTRの問題点の内容ともリンクして面白かったです。

speakerdeck.com


本書を手に取った間接的な要因のひとつである曽根原さんのpmconfのセッション最高でした。

youtu.be