幡ヶ谷亭直吉ブログ

娘のここねと格闘するエンジニア。

『パタン・セオリー』を読んで ~ システムの制御から支援に

読書メモ。2025年64冊目。
『パタン・セオリー』を読んでの感想となります。(2025/9/14記載)

本の概要

本書『パタン・セオリー』は、現代の重要な思想家である建築家でシステム理論家のクリストファー・アレグザンダーカリフォルニア州バークレー大学名誉教授)の仕事を要約したものです。1979年、彼の著書のひとつである『パタン・ランゲージ』は、建築と人間生活に関する1100ページに及ぶエッセイで、50万人の読者を魅了するノンフィクションのベストセラーとなり、さまざまな分野の人々にインスピレーションを与え続けています。2002年から2004年にかけては、さらに幅広い4巻のエッセイ『The Nature of Order(秩序の本質)』が大著として出版されました。

アレグザンダーのライフワークは傑出しています。彼は、デザイン・パターンとパタン・ランゲージを手法の一部として用いることで、センター、全体性、変容という概念に基づくシステム理論、生命システムの一般理論を展開しています。アレグザンダーは、自然科学の伝統的な因果的機械論的パラダイムに対立する新しい科学的パラダイムを提案し、人々を可能にし、デザインプロセスへの参加を支援する方法として、新しい知識フォーマットを提供しています。

アレグザンダーの理論はすでに教育、組織開発、パーマカルチャーにおいて有用であることが証明されており、ソフトウェアにおいてはデザインパターンが主流にさえなっています。多くの学問分野がこの発展に追随しようとしています。パタン・セオリーによって、私たちは思考を変え、世界を見直し、より公正な社会へと向かうことができるのです。これは、より多くの参加とより高い持続可能性につながります。アレグザンダーのコンセプトは、社会の変化とイノベーションのための思考の道具箱を形成するのです。

引用:

patterntheory.jp

動機

本書からの学び

はじめてのアレグザンダー本でした。
ケントベックによる『エクストリームプログラミング』での以下一文によりずっときになっていました。

アレグザンダーは、建築家の自己中心的な関心事は、施主の関心事と一致していないと指摘している。建築家は仕事をすぐに終わらせて、賞を獲得したいと思っているが、重要な情報を見逃している。それは、施主がどのように生活したいかという情報だ。アレグザンダーの夢は、生活に最も大きな影響を受ける人の手のなかに、空間を設計する力を取り戻すことだった。

何も背景を知らない中で、安直にコンテキストを意識しない建売住宅的な建築に対する批判かと思っていましたが、本書ではより立体的に生活に最も大きな影響を受ける人に設計する力を取り戻すことが重要であるかが説明されていました。

特に何事にもセンターがあり、それをとりまく全体感があり、無意識を含めた有機的なかかわりにより相互作用が生きた空間を作っていくという考え方が興味深かったです。
進化的アーキテクチャアジャイル、リーン、チームの自己組織化にもつながるような考え方に、改めてソフトウェアとの親和性も感じました。
また、東洋哲学だけでなく、コモンズのような考え方との共通点も気になりました。
そして、プロジェクトマネージャーの視点からも意識をしたいと思いました。

また、改めてアレグザンダーからの学びをどのようにソフトウェア開発に活かしていけるかも気になりました。
ケント・ベックだけでなくアレグザンダーからの学びを発信している人の考えなども追いたい。
改めてプロダクト思考の重要性も学び成した。

忘れたくないメモ

本書で特に印象に残ったポイントをふりかえります。

美しい建物をつくるには

アレグザンダーが科学者としてのキャリアの開始時点で、「美しい建物をつくるにはどうしたらよいか」と問いかけたとき、きっと新しい哲学を創造しようとしたわけではないでしょう。効率性や合理性で物事を考えるのが当たり前になった現代の私たちの耳には、この問いは素朴に聞こえるかもしれません。しかし、伝統的な社会では主観的な「美しさ」を問うことは至極当然のことでした。優れた芸術作品や建築物は、常に人間の価値観を表し、精神的な概念を象徴してきました。

効率性や合理性を念頭にものごとを考えるのではなく、美しさを考える。
効率性や合理性を美しさを実現していったあとに整理できたものでしかない。

問題の根源は、機械論的なモデルを使って世界を説明すること

アレグザンダー自身は、現在の問題の根源は、機械論的なモデルを使って世界を説明することだと考えています。つまり、「機械論的・因果的な世界観」が支配的であることです。自然科学や技術は、この考え方をうまく利用し、私たちの生活をさまざまに変えてきました。しかし、この成功は、私たちの社会と人類全体を脅かすような副作用をもたらさないか、という疑問が残ります。

問題の根源は機械的に捉えられるほど単純なものではないことを認識すべき。

機能と形は世界のすべてのシステムにとって切り離せない

アレグザンダーは、機械論的手法には本質的な問題があると主張しています。それは、現実とその特性についての限定的な認識をもたらし、メカニズムに関する事実、真か偽かの二元的な態度、直接的な因果関係しか認めないことです。機械論的思考は、モデルが満たすべき機能的条件を特定します。その機能的条件にどの構造(形)が使われるかは重要ではないので、機能と形はほとんど関係がないものとして突然切り離されます。しかし、アレグザンダーは、機能と形は世界のすべてのシステムにとって切り離せないものであると指摘しています。

すべてのシステムは能動的であり機能や形と切り離すことができない。

機械論的世界観の結果

機械論的な世界観の結果として、建築の内外を問わず、思想や価値観の恣意性(何でもありの立場)が生まれ、芸術家にとって破壊的な結果をもたらしました。まず、世界観から「私」が取り除かれ、次に価値観も、取り除かれました。最後に芸術が人間の基本的な必要性から不必要な贅沢品へと変化しました。このような発展の過程で、秩序や美の概念は、客観性と主観性が分離しました。そして、美の概念は対象物と離れ、 その基礎と意味を失いました。因果的・機械論的な世界観は、感染症のように私たちのプロセス(動的構造)を傷つけ、建築やその他の構造物全般に美を生み出すことをほとんど不可能にしてしまったのです。

美しさは主観性が定義するものであり、客観性が定義するものではない。
主体が無いところに美を生み出すことはできない。

生きているシステムの発展を支援

アレグザンダーは、世界の現象やプロセスを理解するための別のパラダイムを示しています。すべてのものは多かれ少なかれ生命があるとみなされます。パタン・セオリーの最高の価値は「生命」であり、好ましいモデルは「有機体」であり、主たる目標は生きているシステムの発展を支援することです。

生きているシステムの発展≠外部から要望された発展。
外部からの要求・要望をもとにシステムは自己発展していく必要があると理解しています。

正の空間(相補性)

街の空間の利用は、家の形やそれらの間のポジティブな空間の両方と結びついており、それらは具体的には、広場や小道、道路などを形作ることになります。より抽象的に見ると、これは「正の空間」が相互に補完しあっていると言えます。スポーツ志向の人の割合が高いところでは、多種多様なスポーツが存在します。成功するプロジェクトでは、特別な団結心を介してチームメンバーがまとまり、相互に補いながらチームワークが促進されます

活き活きとした環境には正の空間があるとイメージしています。

場の感覚に鋭敏なファシリテーター

パタン・セオリーは、これらとは異なる理想と価値観を持っています。 文化を基礎として発達したパタンは、誰も独占しようとしたりしてはならない集合知であり共有財なのです。つまり、社会的・民主的な思想の根幹について語っています。アーキテクトの役割は、「先見性のあるリーダー」から「場の感覚に鋭敏なファシリテーター」へと変化します

コマンド型ではなくサーバント。ファシリテーターという表現が好きです。

自己成長

公園に計画された歩道が人々のニーズに対応できない場合、彼らはしばしば自分たちで道を作ります。したがって、あらかじめ形を決めてしまうのではなく、プロセスから形が生まれてくるようにするほうがより良い場合が多いのです。

対象が独自の発展を遂げることを支援することが重要。

常にもっとも重要なことを最初に行い、 それを正しく行う

自然の発展は、常に「全体性」に基づいた段階的なプロセスだとアレグザンダーは言います。自然界には突然の変化はなく、いくつかの非常に素早いステップが連続して行われたときに、そのように見えるだけかもしれません。私たちは、常に一度に1つのことに集中して一歩一歩進んでいくという考えに、ゆっくりと慣れていかなければなりません。アレグザンダーは次のように勧めています。「常にもっとも重要なことを最初に行い、 それを正しく行うこと。このステップを終えて、次のステップに入る前に結果を確認すること。」

アジャイルやリーンの考え方と一致すると理解しました。

生命の概念は空間と時間の中で展開される有機的構造と直結

アレグザンダーは、この生命の概念が、空間と時間の中で展開される有機的構造と直結していると、提起しています。これらの構造は、明確に定義され、記述され、理解されます。例えば、建築の概念で言えば、庭の池に、生き生きしたアヒルが住み着くと、住まいはより生き生きしたものになるのです。私たちの精神は、周囲の生命や、私たちの周りの環境の生命力との関わりの中で成長します。

我々やプロダクトは日々の有機的なかかわりの中で進化を続けている。

当事者

自分たちにとって何が正しいのか、 何がベストなのか、それを見出すことができるのは、参加しデザインするという特別な状況にある当事者だけなのです。

経験主義と同じことと理解しました。

 

参考

Helmut Leitner: Pattern Languages and Christopher Alexander: Introduction and Crash Course

www.youtube.com

【書籍紹介】パタン・セオリー:クリストファー・アレグザンダーの理論に関する序論と展望

note.com